開発責任者が語る、クラフツマンの外装技術
2014.10.31 UP
みなさん、こんにちは。開発責任者の橋本直樹です。 今回は、弊社が培ってきました外装技術についてご説明いたします。

オール純チタンのケース&バンド

クラフツマンではJIS2種グレードの純チタンを、ケース、ベルト、リューズ、バックルに至る全ての外装に採用しています。 チタン自体は、昨今の腕時計では決して珍しいものではなくなりましたが、当社では2007年の初代クラフツマンにて初めて採用し、その加工技術を磨いてまいりました。 チタンは耐蝕性に優れ、ステンレスに比べて比重が約60%と軽い上、その軽さに対する比強度が金属の中では最強クラスである特徴から、戦闘機のボディやエンジンにも使用される金属です。 一方で、粘性が高く繊細な加工が難しいという難点がありますが、今回様々な種類の純チタンを検討した結果、加工性と強度のバランスが良い、JIS2種チタンが時計外装には最適であることが分かりました。 今回のクラフツマンでは、このJIS2種チタンを採用することで、より複雑かつ繊細な外装加工を実現することに成功しました。

1種は、加工性に優れるものの、軟質で切削や研磨時のシャープな仕上がりを実現することが難しい。一方、3種、4種では硬質でシャープな仕上げが可能であるが、その硬さゆえに細かな成型が難しい。 時計にとって最もバランスが良いのは、2種であるとの結論に至った。

JIS2種チタンを使用することで、強度を保ちながら、複雑かつ繊細な成型が可能となった。


表面処理(IPHコーティング、プラチナIPコーティング)

チタンには先に触れた加工性の難点以外にも、傷に弱いことや、黄味が強い独特のくすんだ金属色であることなど、時計には不利な要素がまだ存在しています。 通常IPコーティングなどの表面処理技術によってこの難点はある程度カバーすることが出来ますが、今回私たちの開発チームは、IPよりも更に進化したIPHコーティングという新しい特殊表面処理技術を採用し、耐傷性の大幅な向上と、見た目の改変を同時に実現することを実現しました。 通常のIPコーティングはPVDとも言われる真空蒸着メッキの一種で、最近ではブラック等のケースに良く見られるようになった外装メッキですが、主にチタン(Ti)などのイオン化した金属に窒素(N)ガスを反応させてコーティングするものが一般的で、その表面硬度はビッカース硬度でHv1000~1200と言われています。 これでもノンコーティングに比べれば遥かに高い耐磨耗性を獲得できるのですが、今回クラフツマンで採用している新技術IPHは、イオン化したクロム(Cr)と硫黄(S)の化学反応による超硬質皮膜により、Hv1800~2000という驚異的な耐磨耗性を実現しています。 さらにIPHはその硬い特性に加えて、ステンレスよりも明るい金属色であるため、チタンのくすんだ色を大幅に改善し、高級感のある明るい輝きをまとったチタン外装へと大幅な進化を遂げました。 今回採用したIPHコーティングは、ケース、ベルト、リューズ、バックルの裏側にいたる全ての外装に処理を施しているほか、限定の25周年記念モデルでは、IPHの上に更にプラチナIPメッキ処理を施すことで、より強い輝きと高級感を演出する仕上がりとなっています。

耐磨耗性を表す指標としてビッカース硬度によるIPHの硬さを比較。 IPよりも更に硬いHv1800以上の超硬質皮膜の形成により、ステンレスの8倍以上の耐傷性かつ、明るい輝きのチタン外装を実現している。

25周年の限定モデルでは、IPHによる硬質皮膜の上に、さらにプラチナIP処理を2層コーティングすることで、プレステージにふさわしい輝きと高級感のある仕上がりとなっている。


IPHコーティング処理を施したチタン(左)とノンコーティングのチタン(右)にて、研磨剤入りの消しゴムにより30回擦る耐摩耗性テストを実施。IPHが優れた耐傷性を発揮していることが分かる。

IPHの上に、さらにプラチナIPメッキを施したクロノモデル。IPHよりも強い輝きで高級感を演出する。

チタンでありながら、ステンレスよりも傷に強いだけでなく、高級感ある明るい金属色を出すことに成功したIPHコーティングの3針モデル。


ファインセラミックスのベゼルリング

今回ベゼルの一部にブラックのファインセラミックスを使用することで、意匠的にも大きく進化を遂げたことは前項でご説明のとおりですが、機能面からもセラミックスを使う大きなメリットが有ります。 セラミックスは、ステンレス鋼に比べて約4倍の硬度、10倍の耐摩耗生がある上、その比重はステンレスの約半分、チタンに比べても80%という軽量な超硬材ですので、時計が一番衝撃や傷に曝されやすいベゼルに使用することで、一層ケースの耐摩耗性を高め、より長い間、綺麗な状態で時計を使えるようになります。

日本製のサファイヤガラス

今回のクラフツマンでは、トップの風防、裏蓋のスケルトン部分ともに純度の高い日本製のサファイアガラスを使用しています。 サファイアガラスは、普通の有機ガラスとは比較にならない程の強度と耐摩耗性を持っており、半永久的に傷つくことなく使用できることは、よく知られていますが、その純度が、色や透明性に影響していることまではあまり知られていません。 サファイヤガラスは、高純度のアルミナ(Al2O3)を人工的に結晶化させたものですが、これに微量のクロム(Cr)が混ざると赤く発色してルビーに、鉄(Fe)やチタン(Ti)が混ざると青く発色して宝石のサファイアになります。 つまり不純物の量や程度によって色や透明度が大きく変わるのが、サファイヤの特徴でもあります。 原材料となるアルミナには、日本製、中国製、ロシア製などいろいろとある中で、純度が高い日本製のアルミナを使用した、透明度が極めて高いサファイヤガラスを使用している点は、このモデルの隠れたこだわりでもあります。

風防への両面無反射コーティング

風防の無反射コーティングは、一般的にはその手間やコストの問題からガラス片面だけ処理をして無反射をうたう場合も実際多いのですが、クラフツマンでは表面と裏面の両面に無反射コーティングを施しています。 ガラス面での光の反射は、実は表面と裏面の両方で起こっていますので、表面だけコーティングしても、裏面では反射が起こり、実際のところ全体の半分の反射しか抑えていないことになります。つまりは、全てのガラス反射を抑えるには、本来両面にかけなければいけないということになります。 せっかく最高グレードのサファイヤガラスを使用しているだから、その性能を最大限に引き出したい。 本来の実用性を追求するために、両面への無反射コーティングはある意味で必須であると言えます。

片面だけでは、ガラス裏側の反射を抑えることが出来ない。両面無反射コーティングによって初めてガラスの透明度や本来の視認性の高さが発揮される。

高純度日本製サファイアガラス、両面無反射コーティングにより、実使用時における最高の視認性を追求した。