創業30周年目のブレイクスルー
2019.6.5 UP

こんにちは、ケンテックス2代目代表の橋本です。
昨年の新製品開発室でも触れましたが、当社は今年で創業30周年を迎えました。
これは私にとってもブランドにとっても大きな節目であり、何か30周年の節目に相応しい、当社らしい腕時計の開発を模索してきましたが、いよいよそのモデルの構想と発売が決まり、こうして開発室で情報をお届けする準備が整ったことをうれしく思います。

構想が固まるまでの道のり

私はケンテックスの2代目としてこれまで、航空自衛隊の航空救難団専用モデルや、バイクライダー専用ウォッチなど、積極果敢に新しい時計の開発を手がけてきました。
ところが、30周年という節目の重圧は想像以上に重く、何かケンテックスの歴史に刻まれる記念すべき時計を作りたいという想いが募る一方で、納得出来る構想が思い描けずに苦悩していました。

ともすれば、大手ブランドではある意味一般的ともなっている、現流モデルの売れ筋商品に、アニバーサリーロゴだけを載せて発売するという方法でも、商売としては良いのかもしれませんが、そこは私の父親譲りの技術者としてのプライドが許さず、納得の行く“新しい何か”を探す日々が続いたのでした。

目の前の霧が一気に消えていったのは、ある時計好きな社員と話をしているときでした。
たまたま見せられたネット上の大手ブランドのダイバーウォッチを見て、これだと思いました。

30周年の節目として原点に立ち返り、最も本質的な技術力・企画力・デザイン力が試される、本格ダイバーウォッチの新境地を開拓したい。私の構想が固まった瞬間でした。

ダイバーウォッチは、時計カテゴリーの中では、もはや成熟の粋に達しているものですが、そのほとんどは、デザインに重きが置かれた「ダイバー風」であり、JISやISOの潜水防水規格に則った、命を預かる本格的なダイバーウォッチは、大手ブランドを除けば殆どありません。(普通はそんな専門的な時計は、中小メーカーは作りたがりません・・・)
またすでに存在しているものも、仕様やデザインは画一的でありながら価格は高額です。

そんな大手ブランドの寡占状態にあって、これまで市場には無かった、
「国産時計メーカー初」と言える新たな本格潜水ダイバーウォッチを開発し、ダイバーカテゴリーに一石を投じたいという私の想いは、開発の大きなモチベーションとなっていったのでした。

価値あるダイバーウォッチと何か

ダイバーウォッチのカテゴリーでは、その防水性能の高さが商品価値を左右することは言うまでもありません。各社がその技術を競うようにして防水性の深度がこれまで次々に塗りかえられてきました。国産メーカーでは、現在1000Mが最高防水深度となっていますが、当社でも企画当初、その記録を更新する設計を目指しました。

数多くの構造サンプルを製作しては、防水試験にかける試行錯誤を繰り返し、
ついには、目標である1000M防水をクリアする構造を開発するに至ったのでした。

実際に第三者機関にて1000M防水性能を証明した

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ところが、私はこの開発したサンプルを見て、率直に疑問を持ったのでした。

果たしてこの時計は実用的なのだろうかと。
こんなに厚い時計を毎日腕にはめたいのかと。

かつて、創業者である父が私に言ったことを思い出しました。

「時計は機能的・実用的であるとともに、美しくなければならない」

この期に及んでの決断ではありましたが、私は大きく方向転換し、1000Mダイバーウォッチの開発を凍結したのでした。

改めてダイバーウォッチとしての機能性・実用性と、美しさ・格好良さの交差点を探して行き着いた結論、それは1000Mではなく300M防水性能だったのです。

苦労をして設計にあたった開発チームからは大反対を受けましたが、私の結論は変わりませんでした。スペックだけでは得ることが出来ない、時計を身につける喜び・満足感、永年にわたって愛していけるための大切な要素を忘れてはならないことに気がついたからです。

そのような経緯で300Mダイバーへと舵を切ったわけですが、1000M構造の開発で培った技術ノウハウが大いに活かされ、結果的に300M防水の自動巻きダイバーウォッチでは、業界初となる厚み15mm以下を実現するという、新たな価値創造にも結実していきました。

制限にとらわれない素材の新規性

防水性能の呪縛から解き放たれ、改めてデザイン性に目を向けた私は、いわゆる国産メーカーの本格ダイバーウォッチが、どれも外装デザインが固定化され、画一的なものが多いことに改めて気づきます。

これは、JISやISOにおいて潜水ダイバーウォッチの仕様が厳しく規定され、デザイン的にも自由度が制限されるため、ある意味で仕方の無いことですが、塩水腐食性への配慮からか、外装素材もステンレスかチタン材かのどちらかに限られているのは勿体無いと感じます。

当社は、前作のマリンマンシーホースから、ベゼル部にセラミック素材を採用し、そのデザイン性の向上を図ってきましたが、以前どうしても実現を断念したことがありました。
それは、“ブルーセラミック”の開発でした。

セラミックは、酸化アルミニウムの粉末を高温で焼結させることで成型・発色を行います。
その粉末と顔料との配合や、焼結温度、加熱時間などの繊細な条件によって発色のコントロールが行われますが、ブルーセラミックはその条件設定があまりにも繊細で難しく、安定した色出しが困難であったことから、前回のマリンマンでは開発の断念を余儀なくされた経緯がありました。

創業30周年を迎え、新たなダイバーウォッチを開発しているという状況下で、当社のブランドカラーでもある“ブルー”セラミックに再挑戦するのは、迷いのない選択でした。

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しかし、条件検討は困難を極めます。
同じ原料であっても、秒単位の加熱時間の違い、僅か数度の温度の違いによっても、その色差は歴然と現れます。

色出しの検討は数十回にも及びます。

私たち開発チームは、あくまでも日本の伝統カラーであり当社のブランドカラーでもある「濃紺」にこだわり、地道な開発を続けた結果、最終的に前回成し遂げることの出来なかった、ブルーセラミックの開発に成功していきます。

さらに、新たな試みとして、光るタイムレセプティングベゼルのコンセプトを打ち出します。潜水ダイバーウォッチでは、ボンベの酸残量を計る目的でベゼルにタイムレセプティング機能が付帯されることが求められますが、通常はただの印字に留まります。

これを精密なレーザー加工と特殊な印刷技術で蓄光塗料に置き換えることで、従来までなかった、光るタイムレセプティングベゼルが実現しました。
これは、暗闇での時間計測に役立つ実用性はもちろん、夜間にその存在感を放つ、本ダイバーウォッチの大きなデザインポイントにもなっています。

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究極の視認性

さらに文字盤とインデックスには、強蓄光に加えて、国産ダイバーウォッチでは初となる、トリチウムガスチューブを惜しみなく採用し、暗闇での視認性の追求を図りました。

mb-microtec社HPより画像掲載

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トリチウムガスチューブによるtrigalight発光技術は、スイスmb-microtec 社の特許技術です。

僅か直径1mm以下のガラス管に封入したトリチウムガスが陽電子を放つことで、およそ20年以上もの間自家発光し続けると言われています

強蓄光とトリチウムガスチューブを組み合わせることで、暗闇環境下で短時間過ごす
場合でも長時間過ごす場合でも、それぞれのシチュエーションに最適な視認性を提供することを可能にしました。

4時間後以降

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30分後

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30分後

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4時間後以降

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国産ダイバーウォッチの再定義

こうして、防水性能の挑戦から始まった創業30周年目のダイバーウォッチ開発は、その本格的な実用性と時計としての美しさという原点に立ち返りながら、素材の革新と視認機能の進化を遂げ、ダイバーウォッチのあり方を再定義するモデルになったと考えています。

第2話では、プロトタイプサンプルの画像をふんだんに掲載しながら、その魅力を解説していきます。